友達に漫画を勧めるときの紹介の仕方
公開日
同じ一つの作品でも、短く言う・雰囲気から言う・設定から言う・先を伏せて言うで、相手に届く形が変わります。四つの言い方を並べて比べ、どれを選ぶかは相手から受け取った手がかりで決める、という順序をまとめました。断定の言葉は使いません。
同じ作品でも、言い方はいくつもある
面白かった作品を人に伝えようとして、うまく言えなかったことはないでしょうか。
全部を説明しようとすると長くなり、短くしようとすると何も残らない。そのうち、面白かったよ、で終わってしまいます。
けれど、足りないのは語彙ではありません。 同じ作品について、どこから話し始めるかを決めていないだけです。
先に決めるのは、相手の手がかり
言い方を選ぶ前に、相手が何を手がかりに読む人かを受け取っておきます。
読み心地から入る人、仕組みから入る人、短いものしか読めない時期の人、先を知りたくない人。同じ作品でも、届く入口が違います。
手がかりは、相手から受け取るものです。 こちらで決めるものではありません。分からなければ、そのまま聞いてしまうほうが早いです。
人気・自分の好み・相手の属性を好みの根拠にしない
決めたいのは、この人にはどこから話すか、それだけです。
四つの言い方を並べてみる
| 言い方 | 先に出すもの |
|---|---|
| 短く | 一言の印象 |
| 雰囲気から | 読み心地 |
| 設定から | 世界と仕組み |
| 先を伏せて | 入口だけ |
たとえば、静かな町で古い道具を直している人の話を読んだとします。ここでは作品名を出さずに、同じ一つの中身を四通りで言ってみます。
どれも同じ作品のことを言っています。 上手い下手でもなく、順番でもありません。相手から受け取った手がかりに合うものを一つ選ぶだけです。
どれを選ぶかは、相手による
短い時間しかない人なら、短く。作品の空気で選ぶ人なら、雰囲気から。仕組みが気になる人なら、設定から。先を知りたくない人なら、先を伏せて。相手の手がかりが、そのまま入口の名前になります。
迷ったら、短くから始めます。 相手が続きを聞いてきたら、そこで足せば足ります。
全部を一度に渡さないほうが受け取りやすいはずです。 四つ並べたのは選ぶためで、全部を言うためではありません。
断定の言葉は使わない
絶対に気に入る、誰が読んでも楽しめる、読んでおくべき、名作。 こういう言い方は、受け取る側の逃げ道をふさぎます。
合わなかったときに、合わなかったと言いにくくなります。 そうなると、次に何かを勧めても本当のことを返してもらえません。
自分がどうだったかを言うほうが確かです。 自分は最後まで一気に読んだ、自分はここが好きだった。それなら、外れようがありません。
読んでいない作品は勧めない
自分が通していないものは、勧めずにおきます。
評判を聞いただけ、あらすじを見ただけ、絵を見ただけ。そのどれも、読んだうちには入りません。
読んでいないものを勧めると、相手が何か聞いてきたときに答えられません。 勧めた側が読んでいないと分かると、勧めたこと自体が軽くなります。
途中まで読んだなら、途中までと言えば足ります。 そこまでの感想は、そこまでの感想として正しいものです。
先のことは言わないでおく
話がどう転がるか、誰がどうなるか、最後がどうなるか。 ここは伝えないでおきます。
「途中で驚くところがある」と言うことも、驚きの構えを作らせてしまいます。 何も言わずに渡すほうが、相手の読み方を邪魔しません。
表紙や題名から分かる範囲までなら、たいてい安全です。 それより先は、相手が読んでから話せます。
相手が先に知りたがることもあります。 そのときは聞かれた分だけ答えます。こちらから広げないでおきます。
相手の属性から好みを決めない
年齢、性別、職業、ふだん見ているもの。そこから好みを当てにいかないでおきます。
当たることもありますが、外したときに相手は訂正しにくくなります。 決めつけられた形で差し出されたものは、断りづらいからです。
聞けば済みます。 どんなものが好きか、いまどのくらい時間があるか、先を知りたいほうか。三つ聞けば、言い方はもう決まります。
読まれなくても、それでいい
勧めたものが読まれないことは、ふつうにあります。
時間が無い、いまの気分ではない、少し読んでやめた。どれも相手の自由です。
読んだかどうかを確かめにいかないでおきます。 催促は、勧めた話を貸し借りに変えてしまいます。
渡したあとは、そのまま置いておきます。 ずっとあとになって手に取られることもあります。
「合わなかった」と返ってきたとき
読まれないことはふつうにある、と書きました。読んだうえで合わなかった、と返ってくることもあります。 ここでの受け取り方が、次にまた勧められるかどうかを決めます。
| 返ってきた言葉 | 次にすること |
|---|---|
| 合わなかった | 理由を聞かない |
| 途中でやめた | どこまでか聞く |
| どこが合わない | 言い方を変える |
| 何も言われない | 触れない |
合わなかったと言われたら、そこで受け取って終わりにします。 理由を尋ねると、相手は説明する責任を負います。断定を避けたのは、この一言を言いやすくするためでした。 聞き返してしまうと、避けた意味がなくなります。
途中でやめたと言われたら、どこまでかだけ聞いておきます。 冒頭で合わなかったのか、しばらく読んでから止まったのか。次に別の作品を渡すときの手がかりになります。 ただ、なぜ止まったかは聞きません。
どこが合わないかを相手が言ってくれたなら、それは次への材料です。 絵が合わない、話の進み方が合わない、量が多い。同じ作品を別の言い方で渡し直すのではなく、別の作品を別の入口から渡します。 言い方を変えて同じ作品を押すのは、勧めることから外れます。
何も言われないときは、こちらからも触れません。 読んだかどうかも、合ったかどうかも分かりませんが、確かめにいくと催促になります。
どの返事でも、勧めたこと自体は失敗していません。 一度渡して合わなかったという事実が残れば、次はその外側から選べます。 何も分からないままより手がかりが増えています。
投稿側の紹介文・気分で選ぶ・感想を届ける記事との境目
並びが近いので、境目を置いておきます。
作品を出す側が書く紹介文の記事は、別に立っています。 あちらは投稿する人が読者へ向けて書く文章で、 こちらは読んだ人が身近な相手へ伝える話です。
気分から作品を選ぶ記事とも分かれます。 そちらは自分のために選ぶ話でした。
感想を作り手へ届ける記事も別です。 向いている先が違います。
勧める前のチェックリスト
| 見るところ | 確認すること |
|---|---|
| 自分 | 読んでいるか |
| 相手 | 手がかりを聞いたか |
| 言い方 | 一つに絞ったか |
| 先 | 伏せてあるか |
| 言葉 | 断定していないか |
結局、紹介は「言葉選び」ではなく「どこから話すか」で決まる
やることは結局ひとつです。自分が読んだ作品について、ひとことだけ言ってみること。
相手が続きを聞いてきたら足し、聞いてこなければそこで終わりにします。どちらでも、勧めたことは伝わっています。
いちばん強い紹介は、読んだ人がまだその話をしている、という事実のほうかもしれません。