ミステリーとサスペンスの違いを漫画の読み方から考える
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二つは別の棚に分かれているのではなく、同じ場面から立つ問いの向きが違います。すでに起きたことへ向かう問いと、これから起きることへ向かう問い。自作の短い場面を一つ置いて、同じ数コマがどちらにも読めることを示しました。優劣は付けません。
同じ場面から、二つの問いが立つ
ミステリーとサスペンス。棚が分かれていることもあれば、同じところに並んでいることもあります。
どちらなのかを作品ごとに決めようとすると、たいてい途中で行き詰まります。 一方に寄せきれない作品がいくらでもあるからです。
分けるより先に、読んでいるときの自分を見るほうが早いです。 同じ一場面でも、そこから立ち上がる問いが二通りあります。
短い場面を一つ置いてみる
実在の作品は使いません。ここで使うのは、この記事のために書いた短い場面です。
たった三行ですが、ここから立つ問いは一つではありません。
問いの向きが違う
| 立つ問い | 向き |
|---|---|
| 何が分からないか | 後ろ |
| 何が起こりそうか | 前 |
一つめは、すでに起きたことへ向かいます。 誰が傘を置いたのか。なぜ濡れているのか。鍵はどうなっていたのか。答えは場面より前にあります。
二つめは、これから起きることへ向かいます。 足音は誰のものか。上がってきたらどうなるのか。答えは場面より後ろにあります。
同じ三行から、両方立ちます。 どちらを強く感じるかは、書き方でも、読む人でも変わります。
謎解き=知的・張りつめ=刺激という並べ方をしない
見たいのは、自分の注意がどちらへ向いているかだけです。
注意がどこへ向くか
後ろへ向いているとき、目は手がかりを探しています。 置かれているもの、噛み合わない時間、言い落とされたこと。集めて並べたくなります。
前へ向いているとき、目は合図を探しています。 近づいてくる音、閉じていく道、間に合うかどうか。ページをめくる手が速くなります。
どちらの読み方も、同じ絵の上で起きます。 描かれているものは変わりません。
書き方によって、立ちやすい問いが変わる
どちらを強く感じるかは書き方でも変わる、と先に書きました。その書き方のほうを少し開いておきます。 何が立ちやすくなるかは、描き手の側の手つきでかなり動きます。
| 書き方 | 立ちやすい問い |
|---|---|
| 結果を先に出す | 後ろ向き |
| 時間を戻す | 後ろ向き |
| 近づく気配を描く | 前向き |
| 期限を置く | 前向き |
起きてしまったことを先に見せると、問いは後ろへ向きます。 傘がもう立てかけてある、という置き方です。読者は「どうしてそうなったか」から入るしかありません。 先ほどの三行の一行目がそれでした。
時間を戻して見せる作りも、後ろへ向かせます。 前の場面へ戻る、思い出す、記録を見る。進むはずのページが後ろへ向くので、注意もそちらへ引かれます。
何かが近づいてくる様子を描くと、問いは前へ向きます。 足音、影、遠くの音。近づいているものが画面に入る前が、いちばん前向きに読ませる場所です。 三行目がそれでした。
終わりの時刻や条件が置かれると、これも前へ向きます。 ここまでに間に合うか、残りがいくつか。過去に謎があっても、期限のほうが強く引きます。
同じ場面でも、どの順で見せるかで向きが変わります。 傘を先に見せてから足音を入れるのと、足音の途中で傘に気づくのでは、同じ材料なのに立つ問いの強さが違います。
だから、自分の注意の向きは作品ごとに変わって当然です。 好みが後ろ向きでも、前向きに書かれた作品では前を向きます。向きは固定した好みではなく、そのとき読んでいるものとの組み合わせで決まります。
両方が立っていることもある
先ほどの三行は、両方が立つ場面でした。
傘の謎は後ろへ、足音は前へ。打ち消し合わずに並んでいます。
一方が立つと他方が消える、という関係ではありません。 過去を追いながら、これからを恐れることができます。
どちらも立っているなら、どちらも立っていると読めば足ります。 一方へ寄せなくてかまいません。
名前は作品の全体に付くとは限らない
一冊の中でも、場面ごとに向きが変わります。
前半は後ろ向きの問いばかり、終盤は前向きの問いばかり。そういう作りもあります。
だから、作品全体を一語で呼ぶと、そのどちらかが見えなくなります。 呼び名は目印であって、中身の要約ではありません。
呼び名が付いていない作品も、同じように読めます。 名前は読むために要るものではありません。
どちらが上ということはない
片方を頭を使う読み物、もう片方を感覚的な読み物として並べないでおきます。
後ろ向きの問いを追うのも、前向きの問いに引かれるのも、どちらも読むという行いです。
難しさでも、深さでも、格でもありません。 その日に読みたいほうを選べばよい、というところに落ち着きます。
両方好きでかまいません。 多くの作品が、実際に両方を用意しています。
事件のやり方そのものは扱わない
この記事では、事件の仕組みや手口そのものには触れません。
どう仕掛けたか、どう隠したか、どう危害を加えたか。そこは読み方の話ではありませんし、書く必要もありません。
使った場面も、傘と足音だけで、誰も傷つけていません。 それでも二つの問いは立ちます。
読み方を説明するのに、具体的な手口は要りません。
近い記事との線引き
隣に並ぶ記事があるため、どこまでを扱うかを書いておきます。
ジャンル名の切り方そのものを整理する記事が、この記事の親にあたります。 あちらは名前の並び方で、 こちらは一場面から立つ問いです。
こわさと不思議の位置づけを扱う記事とも分かれます。 そちらは棚ごとの表記が中心でした。
謎を解く役回りの人物から作品を探す記事も、別に立っています。
迷ったときに見るところ
| 見るところ | 確認すること |
|---|---|
| 向き | 前か後ろか |
| 手がかり | 集めているか |
| 合図 | 身構えているか |
| 場面 | 全体か一場面か |
| 決め | 一語に寄せてないか |
問いを一つ立ててみる
いま読んでいる場面で、自分が何を知りたがっているかを一つ言葉にしてみます。
何があったのかを知りたいなら、注意は後ろへ向いています。この先どうなるのかを知りたいなら、前へ向いています。
それだけ分かれば、その作品をどう呼ぶかは、もう気にしなくて済みます。