エッセイ漫画とは|経験と表現の関係
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経験したことと、記録そのものと、漫画として描かれたものは別々です。実体験・記憶・選択・省略・時系列の整理・会話の再構成・表現上の変更という七つを置き、実話としての表示と再構成の読み取りを別の欄に分けて控える方法をまとめました。再構成を嘘とは扱いません。
経験を描いた漫画は、記録そのものではない
自分の身に起きたことを描いた漫画があります。読んでいると、そのまま起きたことのように感じられます。
けれど、起きたことと、描かれたものは、同じではありません。 あいだに、いくつもの手つきが入っています。
経験と、記録と、漫画は別のもの
この記事の要はここです。
起きたことがあり、覚えていることがあり、描かれたものがあります。 三つは並んでいますが、同じ大きさではありません。
覚えていることは、起きたことの一部です。 そして描かれるのは、覚えていることのさらに一部です。
減っていくのは当たり前です。 全部を入れたら、読める形になりません。
だから、描かれていないことがあるのは、隠しているからではありません。 形にするために選んだ結果です。
間にある七つ
| 間にあるもの | 何が起きるか |
|---|---|
| 実体験 | 起きたこと |
| 記憶 | 残っている分 |
| 選択 | どれを描くか |
| 省略 | 描かないもの |
| 時系列整理 | 並べ直す |
| 会話の再構成 | 言葉を組み直す |
| 表現上の変更 | 見せ方を変える |
七つとも、ふつうに行われることです。 どれかが入っていたら疑わしい、ということはありません。
どこまで行われたかは、読む側からは分かりません。 分からないまま読んで構いません。
実体験と記憶は、同じではない
その場にいたことと、覚えていることは別です。
時間が経てば、細かいところは残りませんし、順番も曖昧になります。 これは誰にでも起きることです。
覚え違いがあっても、経験しなかったことにはなりません。 描かれたものが記憶から作られている、というだけです。
選ぶことと、省くこと
描くものを選べば、描かないものが出てきます。 選ぶことと省くことは、同じ動きの裏表です。
省かれたぶんは、無かったことにはなりません。 図でも消さずに置いてあります。
何が省かれたかを、読む側から言い当てることはできません。 空いているところは、空いたままにしておきます。
時系列を整えること
起きた順と、描かれる順は違うことがあります。
先に結果を置いてから戻る書き方もありますし、離れた時期の出来事を並べて置く書き方もあります。
並べ直すことは、出来事を作ることではありません。 読みやすさのための手つきです。
会話は組み直されている
そのときの言葉を、そのまま覚えている人はいません。
描かれている会話は、伝えたいことが伝わる形に組み直されたものです。短くもなりますし、まとめられることもあります。
組み直されているからといって、話されなかったことにはなりません。 言い回しが同じではない、というだけです。
表現上の変更は、嘘ではない
分かりやすくするために、見せ方を変えることがあります。 誇張して描くこともその一つです。
誇張は、作り話とは別のことです。 感じたことの大きさを、絵の大きさで表しているだけのこともあります。
どこまでが変更かは、読む側には決められません。 決められないものを、決めないでおきます。
再構成に気づくと、読み心地はどう変わるか
七つの手つきを知ると、読んでいる最中にそれが見えるようになります。見えたときに読み心地が落ちることがあります。 そこを先に置いておきます。
| 気づいたこと | 読み心地 |
|---|---|
| 並べ直し | 先が読める |
| 会話の組み直し | 距離が出る |
| 誇張 | 引っかかる |
| 省略 | 気にならない |
並べ直しに気づくと、先の展開が見えることがあります。 結果を先に置く作りだと分かれば、そこへ向かって進むことも分かります。 驚きは減りますが、そのかわり、どこを見せたい話なのかが早く分かります。
会話の組み直しに気づくと、少し距離が出ます。 きれいにまとまった台詞が、その場の言葉ではないと分かってしまう。 ただ、これは作品が下手だからではなく、読みやすくするために必ず通る手つきです。 気づいたまま読み進めて構いません。
誇張にはいちばん引っかかりやすいところです。 大げさに描かれた場面で、本当にそうだったのかと考えてしまう。 そこで止まると、その先が読めなくなります。感じたことの大きさを絵の大きさで表した、と受け取るほうが進みます。
省略には、たいてい気づきません。 描かれていないものは見えないからです。気づいたときも、そこに何があったかは分からないままです。 落ち着いて読み進められる手つきです。
気づかないほうが楽に読めるのは確かです。 ただ、気づいたことを忘れて読み直すことはできません。 一度見えたら、そのまま付き合うことになります。
それでも、気づいたあとに読めなくなるわけではありません。 手つきが見えたまま読むと、書いた人が何を伝えたかったかのほうが見えてきます。 選んだ場面、残した会話、大きく描いた瞬間。どれも選択の跡です。
表示と、再構成の欄は分けておく
実話としてどう書かれているかと、読んで気づいた再構成は、別の欄に置きます。
表示の欄には、書かれていた言葉をそのまま入れます。 どこに書かれていたかも一緒に控えます。
再構成の欄には、読んで気づいたところだけを入れます。 推し量ったことは入れません。
二つを同じ欄に入れると、どちらが書かれていたことか分からなくなります。 分けておけば、あとから見ても区別が付きます。
分け方を示すために、こしらえた場面を4つ置きます。 どれも実在の作品を指していません。
どの例でも、書かれていない理由を埋めていません。 分からないところは空けてあります。
作中の人物から、現実の人を読み取らない
描かれている人物は、現実の人そのものではありません。
そこから、現実の人の性格や暮らしや体調を決めつけません。 描かれているのは、その作品に必要な分だけです。
作者についても同じです。 作中の出来事から、その人の事情を推し量りません。
誰かの私生活を言い当てる読み方は、この記事では扱いません。 分からないことは、分からないままにしておきます。
読むときの五つ
読みながら、次を確かめます。
| 見るところ | 確認すること |
|---|---|
| 表示 | どう書いてあるか |
| 再構成 | 別の欄に置くか |
| 作者 | 人物と分けるか |
| 私生活 | 推し量らないか |
| 空欄 | 空けて残すか |
五つそろわなくても構いません。 表示と読み取りが分かれていれば足ります。
本当かどうかより、書かれたことと読み取りを分ける
経験を描いた漫画と付き合うときにすることは、多くありません。どこまでが本当かを決めるのではなく、書かれていたことと読み取ったことを分けて置くこと。
選ばれ、省かれ、並べ直され、組み直されている。それが分かっていれば、そのまま読めます。
そして、分からないところが残っても構いません。 残しておけるということ自体が、この形式の読み方です。