漫画の構図を味わう|距離と角度から読む
公開日
同じ人が同じことをしていても、どれくらい離れて見えるか、どの高さから見えるかで印象が変わります。距離だけを変えた三つと、角度だけを変えた三つをこしらえて並べました。近いほど気持ちが強い、見上げれば偉い、といった対応は置きません。
同じ場面でも、見え方は動く
一つのコマを見たとき、そこに何が描かれているかには気づきます。
そのうえで、どれくらい離れたところから見えているかも、どの高さから見えているかも、一緒に届いています。 ふだんは意識しませんが、印象のかなりの部分をここが作っています。
同じ人が同じことをしていても、この二つが動けば見え方が変わります。 まずは片方ずつ動かして確かめます。
距離だけ変えてみる
| 距離 | 目に入るもの |
|---|---|
| 遠い | まわりの様子 |
| 中くらい | 姿ぜんたい |
| 近い | 顔や手の動き |
離れていると、その人のまわりまで見えます。 どこにいるのか、他に誰がいるのかが分かります。
近づくと、まわりが画面から外れます。 かわりに、細かい動きが見えるようになります。
優れた見え方を一つ選び出すことはできません。 何を画面へ入れたいかで決まっているだけです。
角度だけ変えてみる
もう一つの軸が、どの高さから見えているかです。
上のほうから見えていれば、床や地面が広く入ります。下のほうから見えていれば、背景の上のほうが入ります。
図では、姿の大きさは三つとも同じにしてあります。 動かしたのは地面の線の位置だけです。
高さが変わるだけで、同じ姿が違って見えます。 ここも、片方ずつ動かすと差が分かりやすくなります。
受け取りは一つに決まらない
距離や角度と、そこから受け取るものは、決まった組み合わせになっていません。
近い絵が、気持ちの高まりに見えることもあれば、息が詰まる感じに見えることもあります。 同じ距離でも、描かれている表情や前後のコマで変わります。
遠い絵も同じです。 落ち着いて見えることもあれば、その人が小さく取り残されて見えることもあります。
一つの意味を割り当てずに読みます。 割り当てた時点で、その作品がやっていることを取りこぼします。
距離と角度で決めつけないこと
目を向けたいのは、前のコマと比べてどちらへ動いたかだけです。
近いほど強い、とは限らない
距離を気持ちの強さの目盛りにしないでおきます。
強い場面をあえて遠くから見せる作りがあります。何も起きていない場面を、ぐっと近くで見せることもあります。
どちらも珍しくありません。 距離と気持ちを結び付けると、そうした作りが全部読み落とされます。
距離そのものは、何を画面に入れるかの選び方です。 そこから先は、描かれている中身のほうで決まります。
見上げる・見下ろすに決まった意味はない
高さについても同じことが言えます。
見上げる絵が、大きく見せるためとは限りません。 その人の足元にいる誰かの位置から見えている、というだけのこともあります。
見下ろす絵も、弱さを表すとは限りません。 上の階から見ている人がいる、という説明であることも多くあります。
誰の位置から見えているかは、視点を読む記事の持ち場です。 ここでは、高さが変われば見え方が変わる、というところまでにします。
二つが同時に動くとき
距離と高さは、別々に動くとは限りません。
近づきながら見上げる。 二つが同時に変わると、差が大きく見えます。
遠ざかりながら見下ろす。 そこにいる人が小さく見えます。
同時に動いたときは、どちらが効いたかは分かりません。 分けなくて構いません。
| 動き方 | 見え方 |
|---|---|
| 片方だけ | 差が読みやすい |
| 両方 | 差が大きい |
見比べるときは、片方ずつ動かした図のほうが分かりやすくなります。
前後のコマと比べて読む
一つのコマだけを見ても、距離や角度は評価できません。
前のコマが遠くて、次が近い。この落差のほうが、一つ一つの絵よりも強く働きます。
ずっと同じ距離が続くページもあります。 そこに一つだけ近い絵が入ると、そのコマが際立ちます。
だから、見るのは差のほうです。 単体の絵に意味を当てにいかなくて済みます。
画面に入っていないもの
近づくほど、画面から外れるものが増えます。
まわりにいる人が外れます。 一人だけが見えている画面になります。
場所が外れます。 どこにいるのかが分からなくなります。
外れたものは、前のコマで見せられていることがあります。 そこで分かっている前提になります。
外れたままのこともあります。 見せない選び方です。
何が入っていないかを見ると、その画面が何を見せたいかが分かります。
描く側の判断には踏み込まない
ここで扱うのは、出来上がった絵をどう見るかだけです。
どこから描くか、どの大きさで収めるか、画面をどう区切るか。そうした決め方は描く人の領分で、この記事は立ち入りません。
並べた枠は手本ではありません。 片方ずつ動かすと差が分かる、ということだけを見せています。
絵を描くほうへ関心が向いたら、その分野の案内のほうが役に立ちます。
人が二人以上いるとき
画面に何人か入っていると、距離の見え方が変わります。
二人とも同じ大きさで入っている。 どちらにも寄っていない見え方です。
片方だけ近い。 近いほうが手前にいるだけのこともあります。
片方が画面の端で切れている。 そこにいることだけが分かる形です。
誰に寄っているかと、誰の側に立っているかは別です。 近く描かれた人の側とは限りません。
人数が増えるほど、距離だけでは読めなくなります。 前後のコマと合わせて見ます。
視点を読む記事との線引き
扱いが似て見える記事があるので、どこで分かれるかを最初に置きます。
誰の側から見えているかを読む記事は、視点のほうを扱っています。 あちらが見るのはその人が知っている範囲や、内側の言葉です。
ここで見るのは、画面に入る範囲と高さだけです。 視点が同じままでも距離は動くので、別の持ち場になります。
コマとコマのあいだの空きを見る記事とも重なりません。 そちらが扱うのは絵の外側にある場所でした。
距離・角度・前後を見る
| 見るところ | 確認すること |
|---|---|
| 距離 | 前のコマと比べたか |
| 角度 | 高さが変わったか |
| 意味 | 一つに決めてないか |
| 続き | 前後とつながるか |
| 作り | 読む話に留めたか |
一場面で距離を見比べる
読みかけの一冊から、続いた二コマを選んでみます。
前より近くなっているか、離れているか。どちらでもなければ、同じ距離が続いているということです。
その差に気づけたら、もう読めています。 意味を言い当てなくても、差が見えていれば十分です。