ヒューマンドラマ漫画とは|人の選択と関係を読む
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中心に置かれているのは、人物と、その人が選んだことと、そのあとで動いたものです。三つは順番が決まっておらず、選択から結果へ一本道でつながるわけでもありません。苦しさの量を作品の値打ちに換えることも、人物に病名や性格の名前を当てることもしません。
何が中心に置かれているか
ヒューマンドラマ、と呼ばれる作品があります。ただ、この言葉は中身を説明してくれません。
事件が起きるわけでも、特別な設定があるわけでもない。それでも読み続けてしまう作品を、まとめてそう呼んでいることが多くあります。
中心に置かれているのは、人物と、その人が選んだことと、そのあとで動いたものです。 この三つが見えると、呼び名のほうは要らなくなります。
三つを、順番のない形で置く
| 見るところ | 何を拾うか |
|---|---|
| 人物 | 何を抱えているか |
| 選択 | 何を選んだか |
| 変化 | どこが動いたか |
三つに順番はありません。 変化のほうを先に見せてから、なぜそうなったかを後で描く作品もあります。
どこから拾ってもかまいません。 図のあいだの線に向きを入れなかった理由も、そこにあります。
人物 — 何を抱えているか
その人が、何を持ったままそこにいるか。
言えないでいること、続けている習慣、誰かに負い目があること、決めきれないまま置いてあること。そのまま置かれて、最後まで触れられないこともあります。
抱えているものの大きさは問いません。 ささいな引っかかりが、最後まで効いている作品もあります。
抱えているものが分からないまま読み進めても困りません。 分かった時点で、前のページの見え方が変わります。
選択 — 何を選んだか、選ばなかったか
選んだほうだけでなく、選ばなかったほうも読みます。
言わなかった、行かなかった、渡さなかった、引き止めなかった。しなかったことのほうが強く残る場面があります。
決断と呼べるほどの重さは要りません。 席を立つ、電話を取らない、そのくらいで十分に選択です。
選ばなかった道は、そのあとも消えません。 読んでいる側がそれを覚えているので、後の場面に影が残ります。
選ばなかった道は、どこに残るか
選ばなかったほうも読む、と書きました。その道が作品の中でどう残されるかには、いくつかの形があります。 形が分かると、選択の重さがどこで効いてくるかも見えてきます。
| 残り方 | 効き方 |
|---|---|
| 別の人が選ぶ | 比べて見える |
| 後で触れられる | 一度で効く |
| 触れられない | 読者だけが覚える |
| 繰り返し出る | 迷いが続く |
選ばなかったほうを、別の人物が選ぶ作りがあります。 同じ場面で違う道を取った人が並ぶので、選ばなかった先がそのまま描かれます。 比べる形になるぶん、どちらが正しいという読み方に寄りやすいところは注意が要ります。作品の側は、たいてい優劣を付けていません。
後の場面で一度だけ触れられる作りもあります。 あのとき行かなかった場所の話が出る、渡さなかったものが人の手にある。一度触れるだけで、前の場面がまとめて効いてきます。 いちばん静かに効く形です。
まったく触れられないまま終わる作りもあります。 選ばなかったことを覚えているのは読者だけ。作品の中では何も起きないのに、読んでいる側には残り続けます。 この形は、読み返すと効き方が変わります。二度目は選ばなかったほうを知って読むことになります。
同じ選択が繰り返し出てくる作りもあります。 何度も同じ岐路に立つ。選ばなかったほうが毎回そこにあるので、迷いが続いている状態が描けます。 決めきらないまま終わることもあります。
どの形でも、選ばなかった道が「無かったこと」にはなりません。 描かれ方が違うだけです。触れられないことを、作品が拾い忘れたとは読まないでおきます。
読むときは、選ばなかったほうを一行だけ控えておくと効きます。 後で触れられたときに気づけますし、触れられないまま終わっても、自分の側に残ったことが分かります。
変化 — どこが動いたか
動くのは、その人の中とは限りません。
本人は何も変わらないのに、相手のほうが変わっていることがあります。置かれた状況だけが動いて、二人とも変わらないこともあります。
良いほうへ動いたときだけを変化と呼ぶわけでもありません。 遠ざかること、こじれること、元に戻らなくなること。どれも変化です。
まったく動かない、という結末もあります。 それも、動かなかったと読めば足ります。
一本道の因果ではない
選択が原因で、変化が結果。そう並べると、たいてい読み違えます。
選んだこととは関係のないところで状況が動くこともありますし、動いた結果のほうが、その人の抱えているものを初めて見せることもあります。
正しい選択と間違った選択に分かれるわけでもありません。 どちらを選んでも失うものがある、という置き方のほうが多くあります。
筋道を一つに決めずに読みます。 決めた時点で、その作品がいちばん時間をかけたところが見えなくなります。
葛藤の量・泣けるかどうかを呼び名の条件にしない
拾いたいのは、人物と、選択と、変化の三つだけです。
苦しさの量は、作品の値打ちではない
どれだけつらい目に遭うかを、作品の深さとして数えないでおきます。
痛みの多い話が深くて、穏やかな話が浅い。痛みで順に並べたとたん、読む話から離れてしまいます。
心が動く量にも、共通の目盛りはありません。 同じ場面で泣く人と、何も感じない人がいて、どちらも間違っていません。
★も点数も置きません。 数字にした瞬間、それは付けた人の側の事情になります。
心の状態に、名前を当てない
人物の様子から、病気の名前や性格を言い当てることはしません。
抱えているものが描かれているからといって、それが何という状態なのかを、読む側が決める必要はありません。 作中で語られていないことを、外から補いません。
その言葉は、現実の人に向けて使われるものです。 作品の人物に当てはめて遊ぶと、同じ状況にいる人の居場所を狭めます。
画面に出ている範囲で受け取れば十分です。 それ以上に踏み込まなくても、選択と変化は追えます。
架空の一場面で書き出してみる
図の左に入れたのは、この記事のなかで組み立てた数行です。 よそから借りた一節は入っていません。
閉まりかけた店の戸を、外から押さえたまま何も言わずに立っている人がいる。それだけの場面でも、三つは書き出せます。
うまく書けなくてかまいません。 三つのうち一つでも言葉になれば、その作品の中心がどこにあるかは見えています。
視点が交差する作品とは、形が違う
複数の人を追う作品と並べられることがあるので、違いを書いておきます。
視点そのものが移っていく作品は、別の形を持っています。 あちらで読むのは視点の移り方と、別々の筋が交わるところで、 ここで読むのは一人か少数の人の、選択と変化です。
何人出てくるかで振り分けられるものではありません。 大勢が出てくる作品でも、中心が一人の選択に置かれていることがあります。
繰り返す毎日のほうを扱う記事とも別です。 そちらが見るのは出来事の大きさと動きの関係でした。
呼び名そのものの分かれ方は、もっと広い範囲を扱う記事のほうにあります。
拾うときに手元へ置くこと
| 見るところ | 確認すること |
|---|---|
| 三つ | 書き出せるか |
| 順番 | 一本道にしてないか |
| 量 | 苦しさを測ってないか |
| 診断 | 名前を付けてないか |
| 形 | 交差と混ぜてないか |
好きな一場面で、三つ書き出す
いま思い浮かぶ場面を一つ選んで、人物・選択・変化の三つを、それぞれ一行ずつ書いてみます。
三つとも埋まらなくても平気です。埋まらなかった欄が、その作品がまだ見せていないところです。
読み進めるうちに、たいてい埋まります。 埋まった順番は、作品ごとにばらばらです。